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佐藤喬さん 株式会社スモールエレファント

仕事も生活も全部遊びっていう感覚で。

一度お腹が空いてる状態に人生を持っていくと、何をやっても楽しい。


 

仕事を「プライベートを充実させるための手段」と考える方は少なくないでしょう。生きていくためにはお金が必要なので、考え方としては理にかなっています。ですが、人の一生において仕事にかける時間が長いことも事実です。人生を豊かに生きるためには、仕事自体を楽しむことも大切なのではないでしょうか? 佐藤喬さんのキャリアはとてもユニークです。秋田県出身で、大学入学を機に上京し、卒業後は都内の映像制作会社に勤務。2歳の子供にアレルギーがあることが発覚し、それを機に生き方について考え直したことが転職のきっかけに。たまたま求人サイトで見つけた「行商人」という言葉に惹かれて応募し、島根県海士町(中ノ島)で行商人デビューを果たします。キッチンカーで首都圏を周り、海士町だけでなく、全国各地の島の料理や特産品を販売し、これがのちに飲食店「離島キッチン」を都内に構える出発点に。同時期に秋田県東成瀬村の地域おこし協力隊を務め、海士町、東成瀬村、首都圏の三ヶ所を股にかけた多拠点生活を送ります。起業や多拠点生活といった自分らしい働き方をしている佐藤さんにとっての「仕事」とは?2021年1月にインタビューを行いました。

記事執筆者:稲田有香、イェン・エマ

インタビュー日:2021年1月

 

多拠点生活


―村、島、首都圏を行き来する働き方はどうでしたか。

僕自身は落ち着きのない性格なので、どこか一箇所に住み続けることは多分無理なんですよね。なので、個人的にはとても好きな生活でした。

―多拠点での生活は、ご家族との関係性に影響しましたか。

これは結婚してる方だったら共感していただけるかもしれないですが、毎日一緒にいるとやっぱり夫婦間で喧嘩することがあります。一週間に二、三日家を空けることが多いんですけど、ちょっと距離をもって接した方が夫婦関係は上手くいくのかなと実際に経験して感じました。

ただ子供達との関係性に関しては、時間をかけないと難しいです。仲良くなる親密度と時間はどうしても比例してしまいます。なので、子供との時間を作って、一緒にいないといけないなって反省点はあります。一長一短ですね。

―多忙なスケジュールだと思いますが、仕事と生活のバランスはどうですか。

あんまり仕事と生活を切り分けて考えたことはないですね。仕事も生活も、全部遊びっていう感覚で、遊び10です。遊びに、プラス睡眠ぐらいの感じですね。ビジネスを創造するのも、家族にご飯を作るのも楽しい。お風呂掃除もゲーム感覚でやるのが面白いです。


島の魅力


―島に行くことの多い佐藤さんが伝えたい島の魅力は何ですか。

日本って島が約6800くらいあるんですよ。その中で人が住んでいるのが400くらい。他は無人島なんです。しかもその400の島も30年後には半分になっている可能性が高い。島は一つ一つが全く違うんですよ。隣同士の島だとしても話し方が違えば、食べ物の種類も違ったり。海は共有しているので取れる魚とかは一緒ですけど、調理方法がまた違ったりします。人間と同じで、それぞれ個性があるんですよ。それを無くしたくないなって思いはあります。ただ今こうやってテレワークが進んでいるので、島で仕事をしながら生活する方が徐々に増える気がしています。

―島の生活はどんな方にオススメですか。

島の生活って、なかなか経験する機会が少ないですよね。コンビニがない島がほとんどで、夜8時にはお店も完全クローズ。飲み屋さんは10時くらいまでやってるんですけど、一軒あったりなかったりの生活です。そういう生活が好きな方は、島暮らしは最高だと思います。食べ物はもちろん美味しいですし、家賃が非常に安いです。なんだったら場所によってはただっていう所もあるくらいです。

ずっと住み続けるのは難しいかもしれないですが、複数の拠点を持ちたい人は、島を一つの候補にするのは楽しいと思います。実際に東京の人でも、週末は島に行って仕事しますとか休みますっていう方もいらっしゃるので、これからそういう生き方が増えていけばいいなって思います。


田舎と都会の働き方

―田舎と都会での働き方について、何か課題に感じていることはありますか。

東京で働いていたときは、満員電車が大嫌いでした。満員電車に乗っていると、結構精神的に辛いじゃないですか。暑いし、シンプルに苦しいのがすごく嫌だったので、満員電車がなくなればいいなって思ってました。ただ今回のコロナでリモートワークも進んで、電車はどの時間帯でも比較的に座れるようになりましたね。

―これからはどんな働き方が実現すると思いますか。

今って東京一極集中じゃないですか。これを機に人口がばらけて、均一にならないかなって思います。どこでも仕事ができるようになると思うので。どこか一箇所で仕事をする働き方はもうこれ以降なくなっていく気がします。旅行しながら旅行先で仕事をするのもアリじゃないですか。なので、仕事のオンオフの隔たりをなくしていって、一日の中に遊びも仕事も全てひっくるめる感じで生きていけたらなと思います。

―一時的な滞在ではなく、首都圏に住む人が地域と密接に関わりながら、仕事と両立する方法はあるのでしょうか。

どんなつながりを求めるかにもよると思います。単純に人とのつながりや田舎に住む人の話が聞きたいのであれば、やっぱり現地に行くしかないですよね。継続的に関係を結びたいのであれば、耕作放棄地などの土地を借りてみることもできます。田舎には空いている土地がたくさんあって、1ヘクタールで年間1000円しないくらいなんです。お小遣い程度で借りられるんですよ。役場の人とか、あとは農家のおじさん・おばさんに聞いて、畑を耕したり野菜を作ったりできます。最初は仲良くなるまでちょっと時間がかかるかもしれないんですけど。


食事


―「食」に関して普段から心がけていることは何ですか。

最近スーパーだと、産地が表記されてるんですよね。ただ外食に関しては、やっぱりハンバーガーとかって、どういうお肉を使っているのか見えないので、原材料が分からないものはあまり食べないようにしています。家族に食事を作ったり、食材を調達する場合には、可能な限りお肉とか野菜は顔の知っている人たちから仕入れるように気をつけてます。これだけインターネットが普及してるので、あとは送料などのコストさえあまりかからなければ、そう行った習慣がもっと広がればいいなと思います。

スーパーは必要なんでしょうけど、直接ダイレクトに農家さんや生産者さんから自宅に届くような仕組みが、一番美味しく食べられる方法だと思うので。ドローンができたりとか、技術の発達によってそれもさらに可能になってくる気がします。

―佐藤さんが「食」を通して実現したいことは何ですか。

スーパーで選ぶ楽しみって、本屋で選ぶ楽しみと似てるものがあって、なくなりはしないと思います。でもAmazonで本は簡単に買えるし、食材も買おうと思えばいくらでも可能なんです。ただ、その先で食材を作っている人の人間性とかに触れると、もっと食事は美味しくなったり、食べるときに誰かと話を共有することで会話になる。なので、その食材の風景が増えて欲しいと個人的に思いますし、自分もそういう食事をしたいと考えています。


食産業


―島や村の生産者さんは、インターネット販売にどれくらい対応していますか。

体感としては2割ですね。理由は明快で、高齢者の方が多いっていうのがいちばんの理由です。若い生産者さんはやってます。

どの田舎もそうなんですけど、後継者不足が深刻なんです。農業にしても、漁業にしても。平均年齢が70歳近くなので、あと10年後には生産者さんの数が激減して、最終的には都会に食材が届かない、なんてことがあるかもしれません。

なので、自衛のためにも食材を作る動きはしていきたいと思っています。必要なスキルを経験者から学べるのもあと数年かもしれないですし。

―食産業でのビジネスチャンスや可能性はどうお考えですか。

作る品種によって全く手間がかからないものがあるんです。ジャガイモとか。あとは収穫の手間と時間を機械がやってくれるようになれば、先行きは明るいというか。技術待ちなところはあると思います。昔ながらの1000年前と同じような作り方では、多分もう時代に向いていないだろうから、これからの技術を駆使して、効率的に美味しいものを作れるようになればいいなと思います。

今ブドウ作りをやってる都会からの移住者が多いんですよ。なんでブドウかというと、ワインを造るからなんですけど。それで、ブドウを単体で売るのではなく、ワインに加工して、日本で唯一のオリジナルを造る。付加価値が付くことで、単価が上がるんです。なので、そういった個性のある作り方が増えていくのではないですかね。


仕事の選択肢

―規模の大きい企業に就職するか、自分でビジネスを起こすか、選択する上で考えるべきポイントはありますか。

学生って当たり前ですけどインプットが仕事じゃないですか。けど、社会人になると求められるのはアウトプットだけです。会社で勉強だけしてますっていう人はやっぱり必要とされない。アウトプットする方法を学生のうちから身につけている人は起業すればいいと思います。

―アウトプットというのは、ビジネスのやり方を理解しているということでしょうか。

ビジネスモデルを新しく作るとかでもいいですし、企画からそれを実現化するまでのプロセスです。自分で企画書を作ってイベントを開いたり、新しい製品を作ってそれを販売してみたりっていう一連の流れですよね。無駄な人間関係とか上司の嫌味とかを経験するのは時間の無駄だと思うので。

―学生時代の経験だけではスキルが足りないと感じる場合はどうでしょうか。  

アウトプットの仕方を知らないのであれば、社会に出て方法を学んでから独立するべきじゃないでしょうか。そのスキルを社会の中で補うんです。そこで大事なのは、仕事を嫌々やるのではなく、自分の仕事が売り上げにどれだけ貢献しているかなど、常に俯瞰から自分の役割を考えるんです。目先の目標だけを追っているのとは、スキル向上のスピードが変わります。お金がもらえてスキルも身につくので、それほどおいしいことはないと思います。スキルさえ身につけば、組織の一員として働き続ける必要もないですし。


働くこと


―若い世代に向けて、これから働く人へのアドバイスはありますか。

野宿をしてみることです。ホームレスになるのはハードルが高いんですけど、野宿をすると価値観が変わるというか。本当に怖いものがなくなってくるんですよね。人間関係も別に、最後の最後はゼロといいますか。どのみち死ぬときは、しがらみとかも完全にゼロになるっている状況が来るので。なので、ゼロの心地良さを一回経験しておくと、どんな仕事でも楽しめると思います。あとはお金も給料が良かろうが低かろうが、低いなら低いなりに楽しめますし、高いなら高いなりに、どうやったら人の幸せに還元できるかを考えられますよね。

―価値観が変わり、仕事に対する考え方が変わるということでしょうか。

若いうちって、お金がないじゃないですか。基本的にお給料としてもらうお金は最初は少ないですし。自分でビジネスを立ち上げて、お金に余裕のある若者もなかにはいるかもしれないですが、多くの人にとってはお金のない状況で生活していくのが最初のスタートだと思うんです。

でもお腹が空いてるときって、何を食べても美味しいじゃないですか。それと一緒で、一度お腹が空いてる状態に人生をもっていって、何をやっても楽しいと感じるようになると、悩んだりマイナスなことを考えたりっていう、無駄な時間を減らせるようになると思います。だから野宿を経験するのはオススメですし、子供たちにも経験させたいです。


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