赤尾邦和さん 国際移住機関(IOM)
辛い思いをしている人、助けを必要としている人に、
少しでも寄り添って仕事をしたいと思っています。
貧困に苦しんでいる人たちが世界中にいたら、その人たちの生活を改善したいと思う人は多いでしょう。私達もその一人です。でも、そう思っても、その思いを行動に移すのは難しく、自分の能力も限界を感じることもあります。自分の仕事に情熱を持ちたいですが、どうやったら持てるのでしょうか。
赤尾邦和さんは、仕事に情熱を持ち、思いを行動に移してきた方です。赤尾さんは国際基督教大学(ICU)で学び、ITコンサルタント会社(IBM)に5年間勤務した後、大学院で公共政策や開発学を学びました。その後、国際協力機構(JICA)に転職し、JICA本部、及びスーダン事務所に勤務。そして、2016年に国連(UN)の機関である国際移住機関(IOM)への入社を決意。現在はアフリカのシエラレオネという国で活動しています。赤尾さんはどうやって思いを行動に移してきたのでしょうか?最初にIT企業に入り、その後シエラレオネで働くことを選んだ理由は何でしょうか?赤尾さんが若者に送るアドバイスは? 2021年1月にインタビューを行いました。
記事執筆者:张倪嫣(エデリン)、田中菜摘
インタビュー日:2021年1月
IOMで働く前
―小さい頃の夢はなんでしたか。
その頃ですよね…。小学校の時は野球選手ですね。高校は生物の研究員になりたかった。国際基督教大学(ICU)の時、中東に関心があって、パレスチナとかイラク、アフガニスタンの文化をもっと知りたいと思うようになりました。国際協力の仕事は、高校三年生から興味がありました。
―大学時代には2003年の戦争前後にイラクを訪問されたそうですね。
あの時世界では凄い戦争が起こっていて、アメリカがアフガニスタンに行く、アメリカがイラクに行くと、毎日ニュースになっていました。でも、戦争が起こった時に一番影響を受けるのはイラクの人だけど、イラクの人がこの戦争にイエスと言っているのかノーと言っているのか、わからなかったんです。その現場を見たかった。その戦争の必要性についてイラクの人たちはどう考えているのか、彼らの声を聞きたいと思いました。
―大学を卒業した後IT企業(IBM)で就職をした理由はなんですか。
私は国際機関で働くことを目標にしていたので、必要なスキルを身につけるためにまずIT企業に行きました。コンサルタント会社での仕事はプロジェクト型で、1~2年、短い場合は3ヶ月~半年ほどプロジェクトに取り組むことになります。いずれは開発協力の世界で働くことを想定していましたが、民間企業で経験を積みたいと思っていたので、卒業時には非営利団体(NPO)や国際協力機構(JICA)に入ることは考えていませんでした。民間でマネジメントなどの経験を積んだほうが、開発業界で働くときに活かせると思ったからです。それが自分にとっては良かったと思っています。
―国連で働くには一定の英語力が必要ですが、もともと英語はお得意なんですか。
いいえ、全然得意じゃなかったです。ICUで英語のクラスをとりましたが、基本的に独学をしました。大変な事ですが、やはり自分が好きなことであれば、何でもできます。
国連で働く
―景気後退の国がたくさんある中、シエラレオネに行こうと思ったきっかけは何ですか。
一つ目はそこに仕事があったから。たまたまシエラレオネの仕事に自分が採用されたというのが一つです。二つ目は世の中での貧困問題です。大変な人たちが大変な時になるべくその人たちの近いところで仕事ができたらいいなと思いました。
―一日の仕事量はどのくらいですか。
そんなに長くないですよ。8時から長くて19時くらいまでですね。
―何か大事にしていることはありますか。
今の僕は国連の国際移住機関(IOM)というところで働いています。自分が一番仕事をしたと感じる場所であり、人のために作った違いが目に見える形で表れる場所だと思います。以前はIBMやJICAのような他の場所で働いていました。しかし、私にとっては、現場の受益者の近くで働き、彼らの顔を見られることは、自分の仕事が彼らに与えた影響を見ることができるので、より大きな意味がありました。
―国連で働くメリットとデメリットについて教えてください。
メリットは世の中の問題や課題を自分の課題として仕事ができることだと思います。デメリットをいうならば、やはり不安定なところです。国連での仕事はプロジェクトベースで、雇用期間が1年だったりするので、来年何をしているかわからないですね。
―国連で働くのに向いているのは、どんな人ですか。
諦めない人。精神的にある程度安定している人。不安定な仕事なので、もしかしたら仕事がないかもしれない、あるかもしれないとか、来年何しているかわからないっていう状況を怖いと思う人には辛いと思います。もう一つは楽観的な人。なぜかというと、取り組んでいる課題が大きいので、すぐ解決しないからです。でもとりあえず前向きに頑張れる人が向いていると思います。
―国際問題の解決ってやはり相当難しいことですよね…
でもハッピーなことって結構いっぱいあります。世界を平和にしようとか、二酸化炭素の排出をゼロにしようなどマクロで考えると達成が難しいけれど、ミクロで考えると達成可能で嬉しいことがあります。例えば、目の前の人が喜んでくれたりとか、今年は雨の量が安定していてお米がたくさんとれたとか。ミクロのレベルでありがとうとかよかったとか思えれば、マクロのレベルで大変でも別にいいか、と思えます。
―国連は国際公務員とも呼ばれているので安定した職業だと思っていましたが…
実はとても不安定です。国際政治とも関係しますからね。例えばもしアメリカが世界保健機構(WHO)を脱退したら、アメリカの資金源が失われてしまってWHOの半分の職員はクビにされてしまいます。
―世界の国々が協力関係にあるので、そのようなことも起こるんですね。
やっぱり国際問題ってファーストプライオリティじゃないんですよ。日本なら日本の問題をまず解決しようとする。日本のお金はまず日本のために使いましょう、と。少し余ったら世界に寄付しますが、やはりファーストプライオリティは日本です。他の国も同じで、それでいいと思うんですが、やはり国際問題というのはプライオリティが低いですね。
職業
―就職の事を決めた時にお金の保証されている仕事と好きな仕事、どちらを優先すべきだと思いますか。
もしあなたがやりたい事が明確にあるならばそれをしたらいいじゃないかなと思います。例えば僕の場合は元々IBMで働いていましたが今は国際機関にいます。多分安定という意味ではIBMでした。国際機関は凄く(雇用が)不安定だし、どんどん予算をカットされるんです。でも一方で僕の中では今のIOMの方が安定してキャリアが継続しています。それはやっぱり好きだから、能力も上がるし、プロモーションもするし、会社にも長くいることができます。好きではない仕事をしたら、パフォーマンスは上がらない。それは多分あまり良い評価にならないから、会社自体は安定していたとしても、逆に雇用の安定は難しいんじゃないかと思います。
―もし赤尾さんが今の仕事をしないなら、他にやりたい事はありますか。
可能性があるならば自分で会社を作ってみたいと思いますね。やっぱり今、社会の問題はパブリックセクターだけで解決できないですよね。例えば貧困問題を解決するなら、国連だけじゃなくて、民間の人がお金を出してやらなきゃいけない。民間のパワーは大きいですよね。そこで自分の会社を作って、海外でがんばりたいと思います。
―自分で会社を作るとしたらどういう役割を担いますか。
多分ファンドを出す人間と、プロジェクトを回す人間の架け橋的な役割だと思います。皆と協力して、僕が世の中で会社とプロジェクトをちゃんと繋げられる人間になって行きたいと思います。
―赤尾さんの強みはどのようなところだと思いますか。
そうですね。僕に強みがあるならば、まあ、相手の立場に立って自分が何を与えられるかをちょっと想像できることですかね。結局仕事は一人でできないからみんなでやらなきゃいけない。例えばIOMで、コロナや廃棄物、若者の雇用のためなど、色々なプロジェクトにドナーからお金をもらいます。ドナーが何の技術を求めているのか、日本政府は何を必要としているのか、どういう活動だったらいいのかというのを、自分だけが決められないから色々な人と話しながら決めて行きます。その時相手の考えていることがわかるとお金をいただけるし、プロジェクトを作れるし、みんなとやれる。僕の能力はそんなに高くないけど、相手のイメージとか相手が自分に期待する事をちょっとわかっていると思います。
―自分の強みをしっかりと理解して、色々なことを考えたほうがいいということですね。
はい、先ほどの話と一緒で、好きな仕事だったら続けられるし、評価されると思います。でも、最初から興味が無い仕事でも、徐々にこれでもいいかなって思っていると、いずれ自分がやりたい事になっているかもしれませんね。やりたくない仕事も頑張るけど、やりたい仕事をもっといっぱい頑張れば、やりたいこともわかってくると思っています。
メッセージ・アドバイス
―自分が好きなことって、どうやってわかりますか。
難しいことは考える必要はなくて、それよりも大事なのは楽しいか楽しくないかじゃないかと思います。例えば、学生は普段大学で友達と話したり、勉強たり、サークルのマネージメントをしたり、楽しい事があると思うんです。そういう楽しさはどこにあるかを考えて、もし仕事でも続けられるならばそれをやったら面白くてそのキャリアを長く続けていけると思っています。
―本当に自分を理解する為には自分の好きなことをやってみるしかないでしょうか。
多分そうですね。僕の中では社会人と学生がわかれていないですね。今大学での生活も社会と絡んでいるじゃないですか。例えば、友人と外国語で話す時に言葉の壁にぶつかれば、それはあなたの弱点かもしれない。周りの友達に聞けば、きっと自分のことをよく知っているから、自分の強みも教えてくれるはずです。社会に出なくても自分の強みを知ることはできますし、今いる場所で自分を知ることもできると思います。
―学生のうちに勉強とか経験をしておいたほうがいい事はなんですか。
学生のうちに仕事に関係しなそうなところに行った方がいいと思います。僕は昔アフリカをバックパッカーで縦断しました。バスに乗って、南アフリカからエジプトまでバックパックを持って、行ったんです。その時は、今後、多分アフリカはいけないと思ったから行こうかと思ったんです。行けないから行ったのに、今、アフリカに7年いますからね(笑)。行けないと思うところにこそ、行ったら新しい発見があって、僕みたいにアフリカに長年いることにもなると思います。半年仕事を辞めてバックパッカーになるのは簡単なことではないので、今やれるならやるのがいいんじゃないかな。自分が何をしたいのかを考えて、それに取り組むべきだと思います。たまにはやりたくないこともあるので、それは諦めて頑張るしかないですけどね。
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